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鬼滅の刃から学ぶ、受け継ぐ心

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目下大ヒット中のマンガ、鬼滅の刃についての考察は至る所でなされているが、火がついた直接的な原因は高クオリティのアニメで、小学生を中心に男女まんべんなく人気が出たことによるものだろう。
うちは2人の娘がいるのだが、ある時からクラス中の話題になっていく様を感じることができたのは幸福だったのかもしれない。
このプロセスは、近くに小学生がいないとわからなかったのではないだろうか、それほど明確に子供たちから急激に熱狂が広がっていった。


昔からどの世代にも、自分たちの時代を象徴するキャラクターがいる。いま40代ならドラゴンボールの孫悟空、30代ならスラムダンクの桜木花道、20代ならワンピースのルフィあたりか?
そして10代は炭治郎と禰豆子になるのだろう。(書いていて気づいたが全部ジャンプだった。もちろん、もう少し上の世代を熱狂させたエヴァなんかもありますね)

そして、やはり社会現象と呼ばれるほどのヒット作というのは時代を移す鏡といえるだろう。私が鬼滅の刃に今の時代を感じるのは、守られるだけじゃないヒロイン像と、誰一人として自分の好きなように生きていないという壮絶な使命の描き方だ。
ヒロイン像に関してはいうまでもなく、明確にヒットの原動力になっている。この作品のすごさは男子も女子も夢中にした点にあり、女子人気は禰豆子や胡蝶しのぶのような戦う女性キャラにあったと思う。うちの娘も禰豆子グッズを欲しがって大変だった。
守られるだけじゃないヒロイン像というのはあのディズニーが伝統的なプリンセス像を刷新した「アナと雪の女王」でも描かれていたので鬼滅の刃が最初というわけではないが、多様化、ジェンダーレスの時代の象徴といえるだろう。

もうひとつの「誰も自分の好きなように生きていない」という部分はこの作品のもっとも特殊な点ではないかと思う。
考えてみれば孫悟空は世界を救うために戦ってはいるが、基本的には強い相手と出会うと「オラ、ワクワクしてきたぞ!」となるように、戦うこと、強くなることが本質的に大好きだ。ドラゴンボールの時代はバブル後で、日本全体に少しの敗北感が漂ってはいたものの、ジャパンブランドの威光は続いており、まだまだやれるぞという空気感の象徴であった。
そもそも当のドラゴンボールが世界で大ヒットし、ジャパニメーションはまだまだやれるぞという雰囲気を纏っていた。
ルフィは不景気が状態化し、閉息感と冷笑にあふれた時代に「うるせえ、行こう!」と冒険に誘うヒーローだった。
気の合う仲間とアウトローになって広い海に向かおう、毎日がつまらなくても、自由なマインドは持っていよう。そんな時代の象徴だったのかもしれない。

https://kimetsu.com/ より引用

対して鬼滅の刃では、誰一人やりたいことをやっていない。
敵である鬼すらなりたくてなっていない。鬼になってしまったら人を喰わないと生きていけない、だから人を殺して喰う。
主人公である炭治郎は鬼にされてしまった妹の禰豆子を治すために、過酷な修行と闘い日々を送る。
鬼滅隊の中に、喜んで闘っているものは誰もいない。それでも過酷な鍛錬に耐え、命を落とすかもしれない運命に向きあっていく。

なぜか? 誰かがそれをやらなくてはいけないからだ。
誰かが鬼を倒さなくては不幸になる人が増えていくから、自分がやる。それだけだ。
そして人間側はきわめてあっさり致命傷を負い、志半ばで命を落としていく。個々の人間で成し遂げるにはあまりにも遠い目標に向かって、
人間側はただ、志を引き継ぐことによって最終的に事を成す。
この構図は気候変動や海洋汚染という大きな環境問題、そしてBlack Lives Matterに象徴される人種間の分断を目の当たりにしながらも
投げ出さず、未来のため、子供たちのために、たとえ小さくても自分にできることを粛々とやらなければいけない現代の我々と、重なるように思う。

もちろん作品自体にそんな想いはないだろうし、重なることも偶然に過ぎないのだが、それでも社会現象的なヒットというものは少なからず時代を反映しているものだと自分は思っている。
子供のころに「毀滅の刃」に熱狂した子供たちは、世代でいうと「ジェネレーションZ」の次、新たにAから始まる世代になる。Z世代は社会課題に関心が高いといわれるが、Next A世代はどうなるだろうか?
いずれにせよ、われわれはとても1世代では解決しきれない様々な問題を抱えていて、気候変動による自然災害のように、この影響からは逃げることができない。
長く、苦しい戦いはもう始まっている。企業は利益の一部を犠牲にしても、変化と向き合っていく必要がある。
鬼殺隊のように、自らの使命を全うし、その輝きで人々を奮い立たせ、巻きこむことができるか、応援してもらうことができるか。
それはきっと、パーパスドリブンなマーケティングの実践ができているかどうかに左右されるだろう。

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