社会課題解決×マーケティング事例

Dove Real Beautyのセルフエスティーム施策

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マーケティング、特にプロモーションもしくはコミュニケーションと呼ばれる広告の世界で、もっとも世界的に有名で権威のある賞といえばカンヌ・ライオンズだ。
世界中の広告クリエイターたちはこの賞を目指し、受賞すればその経歴にとって大きなプラスになる。
企業側も、ここで賞を取るということは、それだけ先進的なキャンペーンをやっていると見なされる。
そのカンヌ・ライオンズを席巻しているのが、ソーシャルグッドと呼ばれる施策、いわゆる社会課題に絡めた広告やキャンペーンだ。
カンヌには多くの部門があるが、2015年には性差別などを扱うグラス部門、2019年にはSDGs部門が新設されたことを考えても、その傾向は顕著といえる。もちろんこれらの部門以外でもPRなど、複数の部門で社会課題を扱う施策が多く受賞している。

カンヌ自体、単なる広告業界のお祭りであり、受賞したからといって良い広告、効果の高い広告というわけではないという批判もあるし、昨今は受賞ねらいのソーシャルグッド施策が増えていることにも賛否両論あるものの、いまやマーケティングの世界でも社会課題解決に向き合うべきだという風潮はもはや常識となりつつある。

そんな「社会を変えようと働きかける、いわば物申す広告」の走りともいえるのが、2003年に始まったダヴの「リアルビューティ」キャンペーンだ。
スキンケアブランドであるダヴは、世の中に氾濫する「過剰に」美しい女性のイメージによって、自尊心を歪めさせられている。という主張を始めた。
「過剰に」美しい女性のイメージとは、美容製品の広告に出演する数々のスーパーモデルのこと、つまりダヴは美容製品でありながら、他ブランドの広告手法を糾弾するという方法で明確な差別化戦略を打ち出したのだった。

だからダヴはリアルビューティ以降一貫して、いわゆるプロモデルっぽい人を広告に出さない。
最初のキャンペーンは、グレイヘアーや妙齢の女性が登場し、ネガティブな言葉とポジティブな言葉、どちらを選択すべきか問いかけることから始まった。
同時期に投下された「Evolution」は、広告の撮影から街頭ポスターができるまで、どれだけの加工がされているかということを暴くドキュメンタリー形式の衝撃的な映像で、ソーシャルメディアを中心に大きな反響を呼び、バイラルビデオと呼ばれる一連の、いわゆる「バズ」狙いの動画ブームの先駆けとなった。

筆者はもともとCMなどの映像制作の現場にいたことがあり、いわゆる肌修正などの画像加工についてはよく知っていたため、当時は「これ見せちゃうの?」と驚いたものだ。
経験上、モデルを使っていない広告といえども間違いなく肌修正はやっていると思うが、それでもこれ以降のダヴは「リアルビューティ」という旗印のもと、「作られた美を糾弾し、その人本来の美しさを引き出し、自己肯定感を高めることで、すべての女性に自信を取り戻させる」というブランディングを一貫して続けている。

日本の女子高生は他国に比べて自国定款が低い、という調査結果に基づき、日本でローンチしたのが「リアルビューティID」だ。

ほとんどの生徒が気に入っていない「学生証の写真」を、ある日突然学校で撮影するといわれ、一人ずつ教室に入っていくと、そこで友人が「自分の長所」を語るビデオを見せられる。そのビデオを見た後に撮影した写真はみんな笑顔になっている、というショートムービーだ。そこには、人は自信を持っていれば美しくなれる、というメッセージが込められている。

ダヴの活動を語るうえで重要なことは、これが単なる広告キャンペーンではないというところだろう。リアルビューティキャンペーンを始めるにあたり。「セルフエスティーム基金」を設立し、
人々の自己肯定感を高めるワークショップなどを定期的に行っている。口だけではなく実際に社会を変えるための活動をすることは、ブランドパーパスを示すうえで何よりも重要だ。
その背景にはリサーチによる「女性の自己肯定感の低さ」をエビデンスとしてとらえ、その背景を考えるという本質的で地道な活動にある。
これは顧客の問題をとらえ、その隠れた原因を見つけ出し、解消するという「インサイトリサーチ」そのものだ。

ブランドとは、意味であり、連想であるといわれる。
優れたブランディング活動は適切にそのブランドの持つ意味、連想を拡張し、価値を高める。
スキンケアブランドであるダヴは、基本的には「肌を整える」ことをひとつの機能価値として持っている。
スキンケア製品は、「肌悩み」から顧客を開放するという「便益」によって選択される。
リアルビューティ以降のダヴは、その機能価値に加え、顧客を苦しめる「偏見」からも解放することを約束(ブランドプロミス)した。
これは機能価値を超えた「社会価値」とでも呼べるものだ。あらゆる製品・サービスの機能価値が向上し、もはや知覚品質としてそれほど差がなくなりつつある
現代において、機能価値だけでは選ばれにくくなり、最終的にはコスト競争になってしまう。


パーパスを明確に打ち出し、共感する人たちに選ばれるブランドになることは、この過当競争から抜け出し独自のポジションを確立する有効な方法だ。

崩壊寸前の医療現場で献身的に働く医療従事者を応援する「Courage is Beautiful」キャンペーンでは、コロナ禍でもその姿勢はぶれないことを示した。
ダヴを人々を偏見や抑圧から解放するブランドとして応援している顧客なら、このような社会的メッセージにも共感するだろう。

ダヴ以降、自己肯定感の向上、セルフエスティームをブランドパーパスとして掲げるブランドは非常に多くなっている。
もともと優れたブランドというものは、顧客に力を与えるものだ。高級ブランドを身にまとったら気後れしない、好きなブランドを手にしていたら勇気がわいてきた。
大なり小なり、そんな経験がある人も多いのではないだろうか。

例えばプロダクトにおいても、それを使う顧客に後ろめたさを感じさせたりしないように、環境に配慮しているというようなことも必要になる。
そのような「守り」の要素も、パーパスドリブンなマーケティングでは重要だ。

当然、ダヴにおいても例外ではない。プロダクトや広告やチャネルや従業員さえも、パーパスのための手段でしかない。

すべてがパーパスのもとに一貫性を持ち、パーパスに奉仕しているかということが問われるのが、パーパスドリブン・マーケティングである。

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