社会課題解決×マーケティング 書籍紹介

本の紹介:CSV経営―社会的課題の解決と事業を両立する

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CSVといえば競争戦略でおなじみマイケル・ポーターが提唱した「共有価値の創造(Creating Shared Value)」の略、この「共有価値」という考え方を「公益(社会にとっての利益」と事業益(企業にとっての利益)を両立させる開発投資活動」として定義したのがこちらの本。

KIRINや清水建設、日本ユニシスなど日本の事例中心なので、われわれ日本人にとっては比較的とっつきやすい構成ではあります。

で、日本視点でCSVを語ると、なんとなくついて回るのが、日本はもともとCSVやってますよ論、たとえば近江商人の「3方よし」や、」松下幸之助氏の「企業は社会の公器である」などを参照しつつ、日本人はもともと公(おおやけ)を大切にするという理念を大事にしている、という感じの思想。

たしかに、われわれ日本人としては過去から慣れ親しんできた考え方でもある一方、松下幸之助氏の「水道理論」あたりは、まだ社会が貧しかった時に「インフラとしての家電を安く広く普及させること自体が社会の活力につながる」という思想がベースになっているので、物が十分行き渡っていて、でも本当に欲しいものが見つからない、みたいな時代とはそもそもの背景が違うということは前提として持っておかないといけないのかなと。

で、こちらの本、実はアマゾンのレビューでも複数指摘されているのですが、ポーターのCSVとは微妙に定義が違い、これはCSVなのだろうか? それともいわゆるCSR(企業の社会的責任:Corprate Social Responsibility)なのでは? という事例が、正直よく出てきます。

たとえばKIRINの事例として、東日本大震災からの復興支援を目的とした「キリン絆プロジェクト」が紹介されていますが、これはどちらかというと社会貢献、CSR的な事例であり、KIRINであれば国産ホップの事例のほうがCSV的かと思います。このあたりは出版時期の問題もあるでしょうが・・・・・・。


横手産ホップのまちづくり(https://www.kirin.co.jp/csv/connection/hop/japanhop/yokote/https://www.kirin.co.jp/csv/connection/hop/japanhop/yokote/)より引用

ビールにかかせないホップの生産農家が、高齢化や後継者不足により減少し続けているということに危機感を抱いたKIRINが、持続可能なホップ生産地づくりを目指して秋田県横手市などと協力して地域活性化を行いながら安定的な国産ホップ供給元を得るというこのプロジェクト。もっともCSVらしい点は、ただ国産ホップを守るだけではなく、プレミアム化するためにオリジナルクラフトビールや、日本産ホップの収穫を体験できる「ビアツーリズム」としてツアー化した点にあります。

クラフトビールに関しては高付加価値化していること、つまりはブランディングですね。

ビアツーリズムに関しては、自然の中でホップ収穫を体験し、作り立てのビールが飲めるという体験価値を商品化したこと、新規事業化です。

仕入れ元、この場合は農家のみなさんの生活もしっかり考え、お互いにとって利益のある、いわゆる「サステナブルなサプライチェーンの構築」をしっかりやるという、メーカー主導の社会課題解決の基本をしっかり作り上げるためには、高付加価値化が欠かせない、と個人的には思います。

なぜなら、基本的にはサステナブルな関係構築にはそれなりの費用が掛かるから、仕入れ元に無言の圧力をかけてダンピングするやり方の対極になるわけなので、基本的にはコストが上がります。ここを「日本産ホップ」としてブランディングして価値を高めているところが素晴らしいです。

・・・・・・「CSV経営」書籍紹介のはずが、大きく脱線して本に掲載されていない事例を語ってしまいましたが、そういう意味でこの本は日本におけるCSV黎明期に出版されたため、まだ本質的なCSV事例が取り上げられていないというもったいなさがある、というのが正直なところ。

ただ、CSVという、ビジネス上の利益と社会課題解決を両立させる考え方を広めようという思いは伝わってくるところもあり、まずは事例を見ながら考えを深めたいという方にはいいかもしれません。10年以上前の本なので、ある意味そのころからの事例の成長、移り変わりも含めて読み解いていくことをおすすめしたいと思います。

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